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分子科学研究所、真空蒸着法の新手法を開発。より効率よい有機薄膜太陽電池と有機トランジスタの開発に道

 自然科学研究機構分子科学研究所の平本グループの嘉治寿彦助教らと米国ロチェスター大学のタン教授らの研究グループは、有機薄膜太陽電池に光を照射することで得られる電流を飛躍的に向上できる新手法を開発したと発表しました。真空蒸着法において、通常より4倍以上の厚さ(約400 nm)の混合膜の結晶化に成功し、同じ厚さの混合膜を従来の方法で作製した場合より、光電流を最高で3千倍まで、例外なく向上することに成功したといことです。
 今回開発した手法により、従来の真空蒸着法よりも結晶性の良い混合膜を作製することができるため、より多くの光を吸収できる厚い混合膜を形成することができ、より高い光電流を生成する低分子型有機薄膜太陽電池を実現することができます。

 現状では、得られた光電変換効率は最大で2.5%に過ぎないとのことですが、同研究グループは、この手法により、太陽電池構成の最適化やこの手法の精密化・汎用化を展開させていくことで、光電変換効率を10%超まで向上させることが可能だとのことです。この手法により、将来、安価で高効率の有機薄膜太陽電池を提供するための基盤技術とするだけでなく、有機トランジスタなど、他の高性能な有機半導体素子の作製への応用も期待されます。

プレスリリース / 分子科学研究所、2011/06/15
有機薄膜太陽電池の光電流を向上できる手法を開発 真空蒸着法の改良によるドナー:アクセプター混合膜の結晶化

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-----image(”図3 H2Pc:C60混合膜を用いた有機薄膜太陽電池の断面の走査電子顕微鏡像”) : 同リリースより

"[概要]
自然科学研究機構分子科学研究所平本グループの嘉治寿彦助教らと米国ロチェスター大学のタン教授らの研究グループは、有機薄膜太陽電池に光を照射することで得られる電流を飛躍的に向上できる新手法を開発しました。 従来の真空蒸着法では低分子有機半導体のドナー:アクセプター混合膜はうまく結晶化できず電気伝導度が低かったため通常、混合膜は100 nm(1万分の1ミリメートル)以下の膜厚で作製されてきました。
今回、低分子有機半導体を真空蒸着して混合膜を作製するときに、真空中で簡単に扱え、かつ、素子基板には付着しない液体分子を選び、同時に蒸発させました。 この結果、通常より4倍以上の厚さ(約400 nm)の混合膜の結晶化に成功し、同じ厚さの混合膜を従来の方法で作製した場合より、光電流を最高で3千倍まで、例外なく向上できました。 この手法は高品質な薄膜の作製が可能なため、高効率の有機薄膜太陽電池の実現が期待されるばかりでなく、有機トランジスタのような他の高性能な有機半導体素子への応用も期待されます。 本成果はドイツの出版社(Wiley-VCH)が発行する先端材料科学の専門誌『Advanced Materials』のオンライン版に近日中に掲載される予定です。
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具体的には図1のように、従来通り、ドナー分子とアクセプター分子の2種類の低分子型有機半導体を透明電極基板の上に同時に真空蒸着して混合膜を作製するときに、この手法ではさらに同時に、透明電極基板に付着しないような液体分子を蒸発させます。 液体分子が有機半導体分子に衝突することで、有機半導体分子が凝縮して混合膜を形成する前に基板表面を動き回りやすくなり、その結果、従来よりも確実に混合膜が結晶化されると考えています。 様々な有機半導体を用いて、通常よりも厚い混合膜(約400 nm)を作製して有機薄膜太陽電池に用いたところ、従来の真空蒸着法で作製した同じ厚さの混合膜と比べて、特に、光電流が3倍~3千倍に向上し、太陽電池性能の劇的な向上に例外なく成功しました。

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-----image(”図1 従来の真空蒸着法と今回の新手法との対比”) : 同リリースより
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以上のように、今回開発した手法では簡単に、従来の真空蒸着法よりも結晶性の良い混合膜を作製することができるため、より多くの光を吸収できる厚い混合膜を用いて、より高い光電流を生成する低分子型有機薄膜太陽電池を実現することができます。
[今後の展開とこの研究の社会的意義]
今回はまだ、電池構成の最適化をおこなっていないため、得られた光電変換効率は最大で2.5%に過ぎませんが、研究グループは、今後、この手法による太陽電池構成の最適化やこの手法の精密化・汎用化を展開させていくことで、光電変換効率を10%超まで向上させることを目指しています。 この手法は将来、安価で高効率の有機薄膜太陽電池を提供するための基盤技術の一つとなると期待され、また、有機トランジスタなど、他の高性能な有機半導体素子の作製への応用も期待されます。
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■論文情報
掲載誌:Advanced Materials
(ドイツの出版社Wiley-VCHが発行する、化学や応用物理学、他の複合領域を含めた広い意味での材料科学分野で高いインパクトファクターを持つ雑誌)
論文タイトル:Co-evaporant induced crystalline donor:acceptor blends in organic solar cells
(共蒸発分子で誘起した結晶性ドナー:アクセプター混合膜を用いた有機太陽電池)
著者:Toshihiko Kaji, Minlu Zhang, Satoru Nakao, Kai Iketaki, Kazuya Yokoyama, Ching W. Tang, Masahiro Hiramoto
掲載予定日:近日中にオンライン版(Early View)に掲載予定

■研究グループ
本研究は、自然科学研究機構・分子科学研究所・平本グループの嘉治寿彦助教らと、米国ロチェスター大学・タン教授(Ching W. Tang 教授)らのグループとの共同研究により行われました。

■研究サポート
本研究の一部は、JSTのCREST、研究領域「太陽光を利用した独創的クリーンエネルギー生成技術の創出」(研究総括:山口真史 豊田工業大学大学院教授)における、研究課題「有機太陽電池のためのバンドギャップサイエンス」(研究代表者:平本昌宏教授)の一環として行われました。

■研究に関するお問い合わせ先
嘉治 寿彦(かじ としひこ)
自然科学研究機構・分子科学研究所・ナノ分子科学研究部門 助教
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関連
有機薄膜太陽電池の効率よい作製法開発-----ナショナルジオグラフィック、June 16, 2011

コメント続き

 次々世代の太陽電池と期待される有機薄膜太陽電池の開発において、新しい技術を世界中の研究者が追い求めています。有機薄膜太陽電池は、将来開発されたとしても今回のリリースのように、変換効率は10%前後とそれほど高くはありません。結晶系やマルチレイヤー太陽電池においては、20%程度の市販品も開発されています。しかし、有機薄膜太陽電池は、その製造コストが非常に安く、たとえぜいぜい15年程度の製品寿命だとしても、多くの太陽光に照らされた、さまざまな建物や設備、果ては乗り物の表面などに太陽光発電膜を形成することができる可能性のある技術とされています。今回の研究は、世界的な研究の進化の中でも、”筋のいい研究”だと、友人もいいます。注目していきます。(2t)

参考エントリー
産業技術総合研究所、新たな原理による有機太陽電池において、波長1 μm以上の近赤外光での光電変換を確認-----ソフトエネルギー、2011/05/02

産総研、新たな原理"分子間電荷移動励起 "による広域光波長に対応した有機太陽電池の動作を実証-----ソフトエネルギー、2010/11/26

理化学研究所、人工筋肉と有機薄膜太陽電池にも応用が期待される光を運動エネルギーに変える新高分子素材の開発に成功-----ソフトエネルギー、2010/11/08

コニカミノルタ、有機薄膜太陽電池の米コナルカテクノロジー Konarka Technologiesと資本・業務提携-----ソフトエネルギー、2010/03/04

東京大学中村栄一教授らのチーム、新型有機薄膜太陽電池の開発に成功-----ソフトエネルギー、2009/11/05

大日本印刷、変換効率4%以上の大型50mm角有機薄膜太陽電池を開発-----ソフトエネルギー、2009/06/24

東レ、世界最高レベルの変換効率5.5%の有機薄膜太陽電池を開発-----ソフトエネルギー、2009/03/25

トッパン・フォームズ、発電する”紙”有機薄膜型発電フィルムの開発を発表。米Konarka Technologies社の技術を採用-----ソフトエネルギー、2009/03/23

三菱化学、建材一体型太陽電池を4月から販売 / クリッピング 日刊工業新聞-----自然エネルギー、2009/03/05

米太陽電池メーカー、Konarkaが、透明な太陽電池を発売?-----自然エネルギー、2009/3/3

住友化学、エネ変換効率6.5%の有機太陽電池セル開発 / クリッピング 日刊工業新聞-----自然エネルギー、2009/02/27

結局太陽電池のコストは、量産能力と電力用太陽電池製造ラインのパッケージ化によるギガワット工場の登場待ちか?-----ソフトエネルギー、2008/10/28

米Konarka Technologies社が完成すれば1GWの薄膜”プラスチック太陽電池”の製造が可能になる工場敷地を確保-----ソフトエネルギー、2008/10/16

薄膜太陽電池の本格市場投入は、2010年。そして各社変換効率アップも目指す-----ソフトエネルギー、2008/09/24

G8環境大臣会合関連展示会へ共同開発中の次世代太陽電池を展示 / プレスリリース 三菱商事ソフトエネルギー、2008/05/21

Konarka Announces First-Ever Demonstration of Inkjet Printed Solar Cells / プレスリリース Konarka Technologies(インクジェットプリンターの技術で太陽電池を開発中)-----ソフトエネルギー、2008/03/17

プラスチック太陽電池の今後に期待!-----しなやかな技術研究会β、2007/1/15

トッキ、非結晶シリコン系の薄膜太陽電池の量産製造装置を開発 / クリッピング 日経プレスリリース-----ソフトエネルギー、2006/05/25

Konarka to Develop Photovoltaic Fabric With Leading Swiss University / プレスリリース Konarka Technologies-----ソフトエネルギー、2005/02/21



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