東京大学中村栄一教授らのチーム、新型有機薄膜太陽電池の開発に成功
東京大学、東京大学大学院理学系研究科化学専攻中村栄一教授らの研究チームが、電子供与体が「峡谷に立ち並ぶ柱」に似た特殊な構造を呈する新型有機薄膜太陽電池の開発に成功したと発表しました。報道などでは、生け花の剣山とも表現された理想的な構造により、太陽光発電素子として塗布型「p-i-n」を実現、世界最高レベルである変換効率5.2%を達成。
三菱化学との共同研究により実用化を目指すとのことです。
プレスリリース / 東京大学、2009/10/22
・2009年 プレスリリース / 高効率化に挑む 新型有機薄膜太陽電池
-----image(”表1:代表的な有機太陽電池の比較”) : 同リリースより
" 発表者
中村 栄一(東京大学大学院理学系研究科化学専攻 教授)
松尾 豊(東京大学大学院理学系研究科光電変換化学講座(社会連携講座) 特任教授)
佐藤 佳晴(科学技術振興機構ERATO中村活性炭素クラスタープロジェクト グループリーダー)発表概要
有機薄膜太陽電池(注1)の高効率化研究において懸案であった、電子供与体(注2)と電子受容体(注3)のナノ構造制御に成功した。電子供与体が「峡谷に立ち並ぶ柱」に似た構造(「カラム/キャニオン構造(注4)」と命名)を形成するこれまで理想的であるとされてきた構造を初めて構築して、世界最高レベルである5.2%のエネルギー変換効率(注5)を達成した。低分子・熱変換型電子供与体「テトラベンゾポルフィリン(注6)」と、新たに開発した電子受容体である新規フラーレン(注7)誘導体「SIMEF(サイメフ)(注8)」を用いて、理想的な構造を持つ、世界初の低分子塗布型p-i-n三層型有機薄膜太陽電池(注9)を開発した。低分子材料の分子設計を基に、電子供与体/電子受容体のナノ階層構造をデザインするという有機薄膜太陽電池の合目的的な設計指針が提案され、更なる高効率化への扉を開いた。今後は、三菱化学などの企業との共同研究を中心に、実用化へ向けての大きな一歩を踏み出す予定である。.....研究グループは、これまでの常識を破る新しい構造を持つ低分子塗布型高効率有機薄膜太陽電池を開発した。今回、電子供与体として熱変換型の低分子材料を用い、電子受容体として新たに開発したフラーレン誘導体「SIMEF」と組合せる事で、低分子材料では困難であると考えられていた塗布型「p-i-n」素子構造(図1)を形成する事に初めて成功し、世界最高レベルである5.2%のエネルギー変換効率を達成した。これまで理想的とされていたが、誰も作製できなかった電子供与体・電子受容体の新しい相互貫入構造、「カラム/キャニオン構造」を形成できたことが成功の鍵となった。
-----image(”図1:左が今回作製したp-i-n三層構造を持つ有機薄膜太陽電池の模式図。右は現在主流であるバルクヘテロ接合型有機薄膜太陽電池の模式図”) : 同リリースより..........
開発した新規フラーレン誘導体「SIMEF」は高収率で大量合成に対応でき、また塗布型は真空蒸着型に比べより安価な薄膜作成プロセスであるので、数年後にはフレキシブルな有機薄膜太陽電池を低コストでどんどん供給することも可能になると考えられる。低環境負荷を特徴とする新エネルギー源である有機薄膜太陽電池の研究が一層進展することにより、今世紀の課題である環境・エネルギー問題の解決へ向けての貢献が期待される。今後は、三菱化学などの企業との共同研究により、有機薄膜太陽電池の早期実用化へ向けて研究を加速していく予定である。論文情報
Journal of the American Chemical Society 誌オンライン版で公開(日本時間10月17日(土))、印刷体での公開は1、2ヶ月先の予定。
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-----image(”図5:走査型電子顕微鏡(SEM)によるカラム/キャニオン構造(図4のVIIIの構造)の解析。カラム状の結晶は、テトラベンゾポルフィリンの結晶である。(上)横から見た図。(下)上から見た図。”) :同リリースより
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用語解説
注1 有機薄膜太陽電池
2種類の有機半導体、電子受容材料と電子供与材料を組み合わせて作る次世代太陽電池のひとつ。溶液塗布法の開発が進めば、印刷により、簡便、低コストで生産できることが期待されている。また、電解液等を用いない固体の太陽電池であるため、柔軟性や寿命向上の上でも有利とされている。変換効率が課題であった。 ↑
注2 電子供与材料
電子を放出する性質を持つ有機半導体材料。電子受容材料に電子を渡すと、自身はホールを生じる。 ↑
注3 電子受容材料
電子を受け取る性質を持つ有機半導体材料。フラーレンやフラーレン誘導体がよく知られている。 ↑
注4 カラム/キャニオン構造
テトラベンゾポルフィリンの柱状結晶(カラム)が林立して生け花の剣山様の構造をつくり、谷間(キャニオン)のある構造のこと。米国ブライスキャニオン国立公園の写真が連想される。 ↑
注5 エネルギー変換効率
太陽電池では、光のエネルギーを電気のエネルギーに変換できる効率のことをいう。開放電圧、短絡電流密度、フィルファクタの3つの積で与えられる。 ↑
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関連
・新太陽電池は剣山構造 東大 低コストの製造法開発-----東京新聞、2009年11月3日
コメント続き
実用化されたときの実際の太陽電池のモジュールの色や形 - またフレキシブルな塗膜構造の太陽電池も可ということで、-を想像するのが楽しいですね。有機薄膜としては、10年以上の寿命を実現することができるという点も期待を抱かせる太陽電池といえます。競争が激化する有機薄膜太陽電池などのローコストでより高い性能をもった太陽電池の開発に確かな足跡を刻んでいってください。(t_t)
追加情報
・塗って作れる太陽電池-----ECO JAPAN,2011年6月23日
" 印刷のように大量生産、カーテンや衣服でも発電へ
2011年4月、三菱化学は、「次世代太陽電池」として実用化が待たれている「有機薄膜太陽電池」において、世界最高値となる9.2%のエネルギー変換効率を達成したと発表した。
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・Mitsubishi Chemical To Commercialize Printable Solar Cells Next Year-----Crunch Gear,April 6, 2011
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