科学技術振興機構(JST)の実施するプログラムの一環として、広島大学、インテックとシリコンバイオは、誰でも簡単に大気中のアスベストを測定可能とする技術を開発したと発表しました。
アスベストは、古い建物に残るアスベスト建材は、国内で4000万トンにのぼり、また東北地方太平洋沖地震の被災地やがれきの中に残る環境への影響評価は急務となっています。これまでの、アスベスト判定は数日から1週間かかり、作業現場での検出は困難とされてきました。
今回開発されたのは、広島大学とシリコンバイオ社によりすでに開発済みの、特殊な蛍光たんぱく質を利用してアスベストのみを蛍光顕微鏡で簡便かつ高感度にとらえるバイオ蛍光法に加え、人力では判定に時間がかかっていた部分を、新規に開発したアスベストを自動で計測できるソフトウエアを開発することで、熟練の計測者でなくてもルールに従って行えば、迅速に確実にアスベストの検出とカウントを可能にするシステムです。
このバイオ蛍光法によるアスベスト検出キットと自動計測ソフトウエアを組み合わせることで、採取済みの大気試料から1時間程度のスピードで、誰でもアスベストの検出と判定を行うことができるとのことです。
プレスリリース / 科学技術振興機構(JST)、平成24年9月26日
・現場で簡便に利用できる高感度アスベスト計測技術の開発に成功
-----image(”上-図2 世界初、アスベストの蛍光イメージング「アスベスト結合たんぱく質を発見し、それを蛍光で修飾した。蛍光たんぱく質はアスベストに結合するので、アスベストが蛍光を発するようになる。」、下-図3 アスベストを蛍光で可視化するまでの操作「大気を捕集したフィルターに、数滴の蛍光たんぱく質溶液を滴下して緩衝液で洗浄後、蛍光顕微鏡にセットすれば、アスベストを観察することができる。」”) : 同リリースより-----
"ポイント
・古い建物に残るアスベスト建材は、国内で4000万トンにのぼる。
・従来のアスベスト判定は数日から1週間かかり、作業現場での検出は困難。
・アスベストを検出する蛍光たんぱく質を利用。蛍光画像を自動解析し1時間程度で正確な判定が可能に。
JST 研究成果展開事業 先端計測分析技術・機器開発プログラム(以下、本プログラム)の一環として、広島大学、株式会社インテックと有限会社シリコンバイオは、誰でも簡単に大気中のアスベストを測定可能とする技術を開発しました。
アスベストは発がん性物質として2006年に法律で使用が全面禁止されましたが、それ以前は主に建材として広く利用されていました。そのため、建築物の一部として国内に現存するアスベスト建材の総量は、4,000万トンにのぼるといわれています。古い建物の解体現場などでは、作業者の安全と周辺環境のため、アスベストの飛散の有無を現場で簡便に計測する技術が求められています。
従来のアスベスト検出法では、大気に含まれる塵などをフィルターで採取し、前処理を行って位相差顕微鏡で観察していましたが、アスベストとロックウールなどの他の繊維との区別が難しいなどの問題がありました。さらに、大気1リットル中に1本以上の繊維が検出される場合、個々の繊維がアスベストか否かを電子顕微鏡で判定する必要があり、数日から1週間程度の時間がかかっていました。
広島大学とシリコンバイオ社では、特殊な蛍光たんぱく質注1)を利用してアスベストのみを蛍光顕微鏡で簡便かつ高感度にとらえるバイオ蛍光法を開発し、アスベスト検出キット「アスベスターAir」として2010年6月から販売を開始しました(本プログラムの要素技術タイプでの開発成果)。この成果により容易にアスベストを検出できるようになりましが、実際のアスベスト判定は蛍光画像を目視で行っていたため、計測者によってアスベスト判定結果に違いが生じるという問題がありました。
開発チームは今回、熟練の計測者でなくてもルールに従ってアスベストを自動で計測できるソフトウエアを開発しました。バイオ蛍光法によるアスベスト検出キットと自動計測ソフトウエアを組み合わせれば、採取済みの大気試料から1時間程度のスピードで、誰でもアスベストの検出と判定を行うことができます。
本成果は、2012年10月10日からパシフィコ横浜で開催される「BioJapan2012」で展示します。
本開発成果は、以下の事業・開発課題によって得られました。
事業名 研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)ソフトウェア開発タイプ
開発課題名 「バイオ蛍光法によるアスベスト自動計測ソフトウェアの開発」
チームリーダー 黒田 章夫(広島大学 大学院先端物質科学研究科 教授)
開発期間 平成22~24年度(予定)
担当開発総括 吉井 淳治(株式会社CLOUDOH 代表取締役)
JSTはこのプログラムのソフトウエア開発タイプで、先端的な計測分析機器の実用化並びに普及を促進するためのソフトウエア開発を行うことを目的としています。
<開発の背景と経緯>
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<開発の内容>
すでに開発したプロトタイプ(バイオ蛍光法によるアスベスト検出キットと携帯可能なLED蛍光顕微鏡、画像取り込み用コンピューターを組み合わせたもの)は、アスベスト繊維の形態と物性の両方をとらえることができ、これまで電子顕微鏡でしか見えなかった微細な繊維を「低倍率」で観察したり、画像を取得することができます(平成24年度文部科学大臣表彰、科学技術賞開発部門受賞)(図5)。
実際のサンプルでは、粒子の付着や、交差、絡まり、湾曲などさまざまな状態の繊維が存在します。開発チームでは、それらに対して環境省が定めた「アスベスト計測ルール」に従って処理するための機能と、撮影条件やサンプルの違いにより生じる蛍光画像の輝度ムラや繊維輝度の違いを補正するための輝度補正機能を開発しました。さらに、蛍光を発する粒子状物質が存在する場合もあるため、粒子領域のマスク処理(粒子領域の切り取り)や、粒子領域ごとに局所的な輝度の再補正を行うことによって、正確に繊維認識が行えるような仕組みを備えました。その結果、従来のアスベスト計測法よりはるかに簡便な操作で、相関の高い結果が得られることから、迅速なアスベスト検査法として本ソフトウエアの有効性が確認できました(図6)。開発チームでは現在、さらに認識精度を向上させるとともに、より利便性の高いソフトとなるように開発を進めています。
ソフトウエアを搭載したプロトタイプは、パシフィコ横浜で開催される「BioJapan2012」(10月10~12日)で展示します。
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-----image(”図1 従来法とバイオ蛍光法の工程の比較”) : 同リリースより
従来法では位相差顕微鏡と電子顕微鏡(X線分析装置)が必要で、検出には数日から1週間程度かかる。開発したバイオ蛍光法では、バイオの特異性でアスベストだけが蛍光を放つため、電子顕微鏡(X線分析装置)が不要になる。試薬滴下工程を含めても、分析開始から1時間程度でアスベストを蛍光顕微鏡で検出することができる。
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-----image(”図6 アスベスト自動計測ソフトウエア操作画面”) : 同リリースより
一括計測ボタンを押すとフォルダ内の画像ファイルを一括で自動計測し、検出されたアスベストの繊維数が表示される。また、入力したフィルター径、大気捕集量から大気中のアスベスト濃度が計算され表示される。アスベスト情報表示ウインドーのタブを切り替えると視野ごとの検出繊維数のほか、検出された各繊維について長さ、幅、アスペクト比が表示され、確認することができる。
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